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Interview《巻頭特集》匠インタビュー

「サーラのおすすめ」巻頭特集である、匠インタビューをご紹介いたします。

麹で新たな文化を創造する
糀屋三左衛門こうじやさんざえもん

室町から代々受け継いできた「種たね麹こうじ」を守りつつ、新たな麹の文化を、多角的な視点から創造・デザインする若きリーダー、第二十九代当主 村井裕一郎氏にお話をうかがいました。

「種麹」製造600 年の歴史

うちは京都で室町時代に創業した「種麹」の製造を生業としてきた家でした。第27代にあたる私の祖父・村井豊三は次男だったので、1965年に本家から暖のれん簾分けという形で、豊橋に移り住みました。愛知は昔から発酵に適した気候風土で醸造食品の製造が盛んであったこと、飯田街道を抜ければ醸造の一大産地・長野にも通じていること、さらに東海道新幹線の開通というタイミングもあり販路の確保もしやすかったんですね。

事業内容としては、父の代までは蔵元や業者向けの種麹製造が中心で、甘酒などの一般のお客さま向けの商品開発は最近のことです。

二十九代当主として

私が父から家業を受け継いだのは2016年。幼い頃から父の後を継ぐことはあたりまえの感覚でした。地元のお祭りやバザーなどには、うちから甘酒を造って出していましたし、「麹」を扱っている会社だということも理解していました。でも、私自身が発酵とか醸造に興味があったわけではないんです。暗記中心の化学に興味が持てなかった。だから大学も得意な文系に進み、その後は渡米して国際経営学修士MBA を取得。金融工学、ファイナンス、マネジメントなどを学びました。ここだけの話、「種麹」というものを初めて目にしたのも、成人して会社に携わるようになってからでした。

会社を継いで以降は、地元の青年会議所で活動したりしていましたが、コロナ禍に入り、自分や会社と向き合う時間ができたときに見つけたのが、完全オンラインによる社会人のための大学院「京都藝術大学大学院 学際デザイン研究領域」の第一期生募集でした。学部や分野を問わず、学問の枠を超えた人々と交流しながら、暮らしや社会など幅広い問題について考察を重ね「デザイン(=構築)」していく、そんなカリキュラムなのですが、きっと面白い出会いがあるだろうと思い立って出願して合格。同期は宇宙飛行士の米田あゆさんをはじめ、本当にとんでもなくすばらしい方々との出会いとなりました。ほかにも、伝統文化や歴史をさまざまな知識や側面から捉え直し、検証・整理するような考え方も学びました。ここで得た刺激や人脈は今も仕事に生きていて、その実践のひとつが「KOJI THE KITCHEN」です。

『麹や発酵は世の中のもの
ほぼすべてと接点が持てる』

プロジェクト「KOJI THE KITCHEN」は、当社が保有する3000種を超す麹菌をベースに、さまざまな分野のクリエイターや専門家を交えてディスカッションをしながら多角的にアイディアを出し合い、麹の新たな価値、可能性を見いだし、文化を創造しようというプロジェクトです。

例えば、食文化の観点からいうと、毎日の家庭で使うお醤油が750mlで数百円。でもワインなら同じ量で何十万、何百万円というものもある。どちらも同じ発酵食品なのに、日常の食卓という世界観からガストロノミーとしての頂点まで、発酵は同じ形で関わっているんです。

また、地域の郷土食として生まれた発酵食品には、その理由となる気候風土や歴史的背景が必ずあります。

愛知県は高温多湿な気候が特徴ですが、地球規模でながめれば、ヨーロッパなどと比較して、日本列島そのものが温暖で湿度が高くカビが生える条件が格段に整っているんですね。さらに、半田市は酢造りで有名ですが、それは酒粕で食酢を造ろうと思った初代中埜又左衛門という存在があってこそ。戦国時代に携帯食として豆味噌を広めたのは徳川家康です。濱納豆は大徳寺の僧が精進料理として考案しました。つまり発酵食というのは、自然、歴史、文化、社会など、世の中のほぼすべてと接点を持ち得るものなんです。

このようなプロジェクトや交流をきっかけとして、さらに新たな市場開拓やメニュー開発、文化創造の可能性などを引きだしてみたいと考えています。

「orise」という甘酒

今回ご紹介する「orise」(おりせ)は、創業から600年という歳月を麹とともに歩んできた「糀屋三左衛門」だからこそご提案できる、ゆったりと流れる時にそっと寄り添い、豊かな日常をつむいでくれるような甘酒です。

お酒の味は原料となる麹菌が持つ、甘み・旨み・香りのバランスによってその個性が決まります。例えば、ピュアでさらりとした淡麗な味わいや、コクがあってどっしりした重めの味わいなど。お酒は味噌や醤油と違って、塩などの調味料を使わないので、まさに麹菌次第ですね。

当社で保有する数千種類の麹菌から「orise」のために選んだのは、「アスペルギルスオリゼ」という麹菌でした。ネーミングの由来でもあるこの麹菌は、すっきりとした甘みと、さらりとした後味が特徴。余韻が強すぎずリラックスできて、心を前向きに整えてくれる…。そんな存在として自由に飲んでいただきたいやさしい甘酒です。

こちらは希釈タイプなので、その日の季節や気分でいろいろアレンジして楽しんでいただけたらと思います。

また近年、甘酒に“飲む点滴”という肩書きをよく見かけるようになって、同時に“効果的な飲み方”のような記事が出ていたりします。甘酒の栄養価が高いのは確かなのですが、いわゆる効率良く栄養を摂るための、健康食品的な部分ばかりがメインになってしまうのは、正直、どこかもったいなく感じてしまいます。

温めるとビタミンが壊れるとか、毎日定期的に飲まないとダメとかいう情報もあったりしますが、本当に温めたらいけないものならば、歴史上、冷たい飲みものとして今なお存在していたと思うんですよ。でも子どもの頃など、夏には冷やし甘酒を、寒い季節や風邪をひいたときなどに温めて飲みましたよね。「甘酒って、おいしいな…」と、ゆったり心で味わいながら、飲みたい時に飲んでいただきたいと思います。

無理せず麹とつきあう

近年、麹や発酵食品は健康食品としての観点から注目されることも多く、仕事柄、「正しい発酵食品の食べ方を教えてください」みたいな質問もされるのですが、甘酒と同じく、ちょっとそれは健全ではないなと思うところもあるんです。なぜなら、この質問の裏には“間違った食べ方”をしているんじゃないかという不安があるわけです。つまり、発酵食品を食べる=生の酵素をいかに摂り込むか、ということが正解になってしまっているんじゃないかと。

発酵食品をより摂取した方がいいというけれど、醤油、味噌、みりんなどの調味料、パン、ハム、かつおぶし、チーズ、紅茶やお酒など、朝から晩まで普通に飲んだり食べたりしていたら、現実的には、発酵食品を摂らないようにすることの方が難しいくらいです。

逆に、最近ではお料理用の塩麹なども身近なスーパーで買えるようになってきましたが、日常的に使いこなしていらっしゃるのは、お料理が趣味の方や、健康志向の方が中心ではないでしょうか。実のところ、塩麹は思いのほかかんたんに使える万能調味料なので、麹屋としては、これこそ少しハードルを下げてお使いくだされば…と思います。気負う必要はないんです。

例えばカレーだって、レトルトでパパッと済ませたい方、ルーは使うけど肉や野菜の具材は用意する方、香辛料からすべて手づくりする方など、それぞれが各自のおいしさのスタイルがありますよね。

バランスの良い食事を、心地良いスタイルで、おいしく食べたり飲んだりすることこそが、食の本来のあり方。だから、麹とも無理せずゆるくお付き合いいただけたらと思います。

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